私たちは知覚や行動に関わる脳 の働きを調べたいと考えています
. ゼブラフィッシュの稚魚は受精
後5日目にゾウリムシを認識する ことができます.
稚魚はゾウリムシを見つけ近づき 捕えます.
私たちは稚魚がゾウリムシを知覚 する際の脳の活動を可視化しよう
と試みました. 私たちはモデル脊椎動物ゼブラ
フィッシュを用いてこれを可能 にするためのツールと方法を開発
しました. 本研究で重要な役割を担ったツール
がgcampです. gcampは埼玉大学の中井博士大倉
博士らにより2001年に発明されました .
gcampの構造はm13ペプチドgfp緑色 蛍光タンパク質それにカルモジュ
リン配列を含みます. カルシウムイオンがカルモジュ
リンに結合すると立体構造の変化 が生じその結果gfpの蛍光が増加
します. 細胞内カルシウムイオン濃度は
通常低く保たれていますが神経細胞 が活動することにより細胞外から
細胞内へのカルシウム流入が生 じるためgcampでそれを検出すること
により神経活動を記録すること できます.
この研究では従来のgcampよりも もっと高感度な新しいgcampを開発
することに成功しました. 本研究を可能にしたもう一つの
重要なポイントはgal4-uasシステム という技術です.
転写活性化因子gal4はuasと呼ばれる 標的dna配列に結合しuas下流に位置
する遺伝子の転写を活性化します .
私の研究室では遺伝子トラップ スクリーニングを行っており
これまでに1000系統以上もの遺伝子 導入ゼブラフィッシュ系統を作り
出しました. それぞれの魚の系統は異なる組織
にgal4を発現しています.
これらの水槽一つ一つに異なる 系統の魚が飼育されています.
ヒトや魚などの動物の脳の構造 には共通する特徴があります.
そのような特徴の一つが視覚地図 レチノトピックマップと呼ばれる
ものです. これは何かというと脳内における
神経細胞の空間的な配置は視覚 世界が脳の一部の領域に写される
ように構築されているというもの です.
視覚世界が脳内の視覚地図に写 されていることは概念的には良く
知られた事実ですが 自然な条件下でリアルタイムにこれ
を示した研究は今までありません でした.
私たちは新たに改良したgcampを 用いることにより捕獲行動時の
稚魚脳内の視覚地図の様子を可視化 したいと考えました.
魚の脳では視蓋と呼ばれる領域 が視覚情報処理の中枢としての働き
を担っています. 私たちはまず当研究室の遺伝子
トラップデータベースを検索して 一つのgal4系統を選び出しました
. この系統ではgal4遺伝子が視蓋において
発現しています. また同時にuasgcamp7a遺伝子導入ゼブラ
フィッシュの作製も行いました .
そしてgal4系統の魚とuasgcamp7a遺伝子 導入魚を掛けあわせることにより
gcamp7a遺伝子を視蓋の領域で発現 させました.
実験測定そのものは非常に単純 です.
稚魚の周りでゾウリムシを泳ぎ 回らせて蛍光顕微鏡を用いてカルシウム
イメージングgcamp蛍光の画像記録 を行います.
実際の測定ではこんな感じでカルシウム シグナルが観察されます.
gcampの蛍光強度変化は疑似カラー 表示されています.
眼球上の色は眼球が動いたために 画像処理中に生じたアーチファクト
であり神経シグナルではありません .
この実験では神経シグナルは視 蓋においてのみ観察されます.
私たちはまた自由に泳げる状態 の稚魚がゾウリムシを捕獲する
ときのカルシウムシグナルを記録 測定することにも成功しました
. 解剖学的な知見から予想される
通りゾウリムシの動きが脳の視覚 地図上に表現されている様子が
リアルタイムに可視化されました .
また視蓋の前方部における神経 活動と捕獲行動とが相関することも
見出しました. 今回の研究は捕獲行動の最初の
段階すなわち稚魚がゾウリムシ を知覚する際の神経活動をイメージング
したものです. 現在私たちは今回開発したこの
方法を用いて脳における認知プロセス に関わる神経活動を可視化したい
と考え研究に取り組んでいます .